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2019.01.09

新時代へ・守る[5] 鯨歯工芸 千々松正行さん(石巻市)

鯨歯工芸を続ける千々松さん

 「象牙は真っ白だが鯨歯は乳白色。鯨歯のはんこは使い込むと朱肉の色を吸って独特の目が浮かび上がってくる。この色合いは鯨歯でしか出せない」

 石巻市鮎川浜の鯨歯工芸店「千々松商店」の3代目、千々松正行さん(65)が熱っぽく語る。

 国内有数の捕鯨基地として栄えたクジラの町で、1928年に創業。クジラの1本の歯から1本のはんこを作る「芯取り」の製法を継承する。近年は歯の曲線に沿った形のはんこを考案した。机の上でも転がらないことから好評という。

 千々松さんは約40年前、24歳で店を継いだ。80年代に商業捕鯨が禁止され、鯨歯の仕入れができなくなった。今は先代が買い付けたストックを使っている。

 最盛期、鮎川浜に4店舗あった鯨歯工芸店は千々松商店だけになった。東日本大震災で被災し、一度は店を諦めかけたが、震災から約2カ月後に再開。鮎川浜の仮設商店街「おしかのれん街」に店を構えた。

 クジラが当然のように食卓に出ていた昔と違い、「クジラ離れ」が進んでいると危惧する。東京や仙台市の百貨店で開かれる職人展に年に8回ほど参加するが、鯨肉を食べたことがない人が多いと感じた。

 「鯨肉も鯨歯も庶民のもの。日常的にクジラに触れられる機会が再び増えればいい」と願う。

 クジラの文化を次の世代に知ってもらおうと2016年、地元の牡鹿中で鯨歯工芸の体験授業に協力した。「子どもたちが一生懸命取り組んでいて、やったかいがあった」と手応えを語る。

 千々松さんが期待するのは、商業捕鯨の復活だ。日本政府は昨年12月26日、国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明。今年7月に商業捕鯨が再開される見通しとなった。「工芸だけではなく、食を含めたクジラそのもののアピールが必要だ」と強調する。

 今秋、市が整備する鮎川浜地区拠点エリアの観光物産施設に店を移し、新たなスタートを切る。来年3月には震災で全壊した「おしかホエールランド」が再建され、観光客の増加が見込まれる。復興を歩む地域に新たな時代が訪れようとしている。

 「生きている間は鮎川に捕鯨の文化があったこと、鯨歯工芸があったということを伝えていきたい」。クジラの町の再興を夢見て、千々松さんが力を込めた。


※新時代へ・守る[4] 河南鹿嶋ばやし 広渕小へ継承(石巻市)
http://ishinomaki.kahoku.co.jp/news/2019/01/20190105t13006.htm


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