短歌(12/16掲載)

短歌

【佐藤成晃 選】

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つくれども独(ひと)り喰ふ飯(めし)旨(うま)からず妻の病室三度も代はる (石巻市恵み野・木村譲)

【評】一人での食事の味気無(あじけな)さを嘆く一首である。この味気無さを一段と強めているのは妻の入院である。かなり長期の入院生活を送っていることが分かる。将来への見通しが立てにくい状況での食事と理解してもいいのかもしれない。同じ応募はがきに「介護5の妻を戻さむ家は無しそれを言い置く言葉をさがす」があって、作品の背景はきわめて追い込まれた空気が漂っている。忍耐と辛抱が生活の中心になってしまうことの現実を前にしては、鑑賞も遊びごとになってしまいかねない。

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分水嶺に落ち葉が一枚回りおり岐路に立ちいしあの葉はいずこ (石巻市南中里・中山くに子)

【評】山に降った雨が日本海に向かって行くか、太平洋に向かって下るかの境目を「分水嶺」と言う。一方は最上川へ、他方は北上川へということ。陸羽東線「堺田(さかいだ)」駅の近くにその実態の見えるポイントがあるらしい。ただ、この「分水嶺」という言葉は「分岐点」という意味も持っていて、「人生の分かれ目」として使用されることがある。選択肢が二つあったとき、どちらの方を選び取るか。その意味も重ねてこの作品は鑑賞すべきではないだろうか。

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覚めし夢の続きがすっきり顕(た)ちてくる赤錆(さび)色は黄泉(よみ)の夕焼け (東松島市大曲・阿部一直)

【評】夢から覚めた。その続きがはっきりと見えると言う。その続きの夢の中に「赤錆色」がはっきりと見えたと。しかもそれは紛れもなく「黄泉」の世界の夕焼けだ。すでに愛妻を旅立たせている作者にとって、黄泉の国は遠くはない。美しい夕焼け空で彩られた世界であってほしいという気持ちになるのかもしれない。はがきにはもう一首あった。「仕残した夢果たさずに逝けるかと独りごちつつ割竹を踏む」。生への執着があっての夢なのかも知れない。

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恙(つつが)なく生きているかと問うごとく雀ら騒ぐ朝のベランダ (石巻市中央・千葉とみ子)

前歯二本かけたるままに笑ってた母思い出す八十路(やそじ)になりて (石巻市丸井戸・松川友子)

太指の節榑(ふしくれ)立ったわが父のその手の渕(ふち)を歩いています (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

菊の花霜降るまえに摘みとりぬ日暮れの早さに追わるるごとく (石巻市高木・鶴岡敏子)

気がつけば暦は一枚残すのみ介護の流れ未(いま)だつかめず (石巻市向陽町・中沢みつゑ)

菩提寺の燃え立つもみじに近寄れば空気も染まるパワースポット (石巻市八幡町・松川とも子)

山陰の旅に疲れし目交(まなかい)に心鎮もる松江城(まつえ)の城壁 (仙台市青葉区・岩渕節子)

のど自慢祖母のためにと唄(うた)う子の鐘二つにも拍手と涙 (石巻市不動町・新沼勝夫)

巻きつきしコードを解いて炬燵(こたつ)するどんより冷えた今朝の寒さに (石巻市須江・須藤壽子)

小雨降る東尋坊を見はるかすドラマのロケ地どこかと探す (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

紫の艶(つや)実(み)は枝に残しつつ式部の葉早や乾反(ひそ)り初めたり (石巻市桃生町・佐藤国代)

人知れず道端に花を植うるあり表彰したいはこんな人たち (石巻市蛇田・菅野勇)

子ら集ひ母八回の法要す母愛(め)でし庭に蝉しぐれ降る (石巻市三ツ股・浮津文好)

あの当時竹槍(たけやり)構えの訓練ありき男性不在の国防婦人 (東松島市矢本・奥田和衛)

津軽ではストーブ列車のニュースあり音信途絶えし友は元気か (石巻市丸井戸・高橋栄子)

牡鹿嶺(おしかね)に登りて見れば小春日の朝の光に海の青濃し (女川町・阿部重夫)

湯の宿の沢に架かりし獣橋子猿一匹どうどう渡る (石巻市桃生町・千葉小夜子)

【2018年12月16日(日)石巻かほく掲載】

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