記者の原点(河北新報社石巻総局・氏家清志)

水紋

 「命を削る思いで記事を書いて下さい」

 今年の夏ごろ、石巻市を拠点に在宅被災者の支援を続ける男性に言われた一言が頭に残っている。男性と共に在宅被災者の話を聞いて回り、これから記事を書くという時に言われた言葉だった。

 東日本大震災の影響で損壊した家屋に今も暮らす在宅被災者の多くは高齢者で、低所得者も少なくない。取材では深刻な生活苦を抱えた被災者と多く出会った。

 「困窮する被災者が抱える問題を一刻も早く社会に伝えてくれ」。男性が私に言った言葉には、そんな気持ちが含まれていたのだろう。

 昨年度まで県警の記者クラブに長く所属した。警察当局の捜査状況を巡る他紙との取材競争の中で、おのずと捜査幹部と接近することを強く意識するようになった。一般からの情報提供もあったが、事件に発展する「ネタ」なのかどうか値踏みするような気持ちで話を聞いていた。

 「ジャーナリズムは声を上げたくても上げられない人のためにある」。学生時代に感銘を受け、記者を志すきっかけとなった報道の精神を培うどころか、失いつつあった。

 在宅被災者が抱える問題や、新たな支援の広がりを伝える連載を河北新報に掲載後、男性から電話があった。「被災者の一人が『記事を読んで希望が出てきた』と言ってたよ」と伝えてくれた。

 現場に足を運び、市井の人々の声をすくい上げる。報道の原点を心にとどめ、被災地での取材を進めたい。

(河北新報社石巻総局・氏家清志)

【2018年10月26日(金)石巻かほく掲載】