短歌(9/23掲載)

短歌

【佐藤成晃 選】

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「もう」と「まだ」使い分けして過ごす日のそれもおしまい齢(よわい)八十 (石巻市向陽町・後藤信子)

【評】「もう年だから」と言ったり、心の中では「まだまだ」と言い聞かせたり。言葉でもって言い訳を考えながら生きることができたのはここまで。もう言葉ではなんともできない。それが八十歳という線だ、「おしまい」ときっぱりと宣言しているいさぎよさ。無理のきかない身体をいたわるようにも聞こえてきて、現実と賢く妥協しているのはさすがだ。でもこの作品の力から類推するに、「まだ」いけますよと、応援したくなる。

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先に逝くも残るも哀しと笑いいし黄泉路(よみじ)の妻よゆっくり歩け (東松島市大曲・阿部一直)

【評】いつかやって来る連れ合いとの別れ。笑って語るしかない話題だ。哀しさを笑いに混ぜてそれとなく別れていくと言うのが当たっているかも知れない。作者たち夫婦もそのようにして別れたのだろうか。先に逝ってしまった妻に対して言えることは「ゆっくり歩け」くらいか。この言葉の裏には、あとを追う自分との距離が計算されているのかも知れない。命令形が哀願にも読めてしまうところにぐっと惹かれる。

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北の海想いてメモ紙手に取ればあれもこれもと短歌(うた)にはならず (石巻市駅前北通り・津田調作)

【評】一生を船に乗って魚を追いかけた作者。これまで発表されてきた船上での労働歌は魅力的だった。折々にメモ帳に当時のことを思い出しながら作歌をこころみるのだが、「あれもこれも」一気に思い出されて、なかなか作品としてまとまらないのだろうか。何でもかんでも歌に詠みこまないことが秘訣です。これぞということに絞って一首にまとめていただきたい。「これぞ」が原点になって想像が広がっていく作品を期待したい。

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この土地の十年前の顔をしてこほろぎひとつがリビング覗(のぞ)く (石巻市恵み野・木村譲)

こころまで救ふ神さま在(おわ)すごとうすくれなゐの擬宝珠咲(ぎぼうしひら)く (石巻市桃生町・佐藤国代)

面会簿に記す続柄「娘」の名ゆっくり書けば滲みゆくなり (石巻市開北・星雪)

森からの一声起こればひぐらしのやがてこだまの坩堝(るつぼ)となりぬ (石巻市南中里・中山くに子)

幸水は蔵王の風をまといつつ我が家に届く秋の使者なり (石巻市丸井戸・高橋栄子)

イヤホンで耳を塞(ふさ)いで自転車の片手のスマホ我を追い越す (石巻市中央・千葉とみ子)

ハゼ釣りの風情が河に戻りきて秋のうららをトンボも覗く (多賀城市八幡町・佐藤久嘉)

日よけにと窓辺にきゅうり繁らせて雨降る日には部屋にて捥(も)ぎぬ (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

亡き母のピンクの色が好きだよと頬笑みいるよなサルスベリの花 (石巻市蛇田・菅野勇)

ひぐらしの声聞きながらうたた寝の夢の中にて涼(りょう)をもらいぬ (石巻市飯野・川﨑千代子)

復興の新居の窓の月あかり仮設のことは夢のごとしや (石巻市三股・浮津文好)

この夏の炎熱地獄で泥を掻くボランティアさんの重きスコップ (石巻市八幡町・松川とも子)

口ぐせで食べや飲めやと妻の言う食細りたる我を気遣い (石巻市蛇田・梅村正司)

小一の孫を相手にさす将棋一手一手に声あげながら (石巻市不動町・新沼勝夫)

ようやくに念仏寺にたどりつき鐘を打ちたり千燈供養の (石巻市相野谷・戸村昭子)

ひたむきにボールに賭(か)ける金足農全国(くに)を沸かせた雑草魂 (石巻市わかば・千葉広弥)

歌を作り自分の性(さが)が見えて来た歌より先に自分をみがく (石巻市向陽町・蟻坂利江)

【2018年9月23日(日)石巻かほく掲載】

■作品を募集中

 短歌、俳句、川柳を募っております。皆さんの力作をお寄せください。

 募集要項は次の通りです。

 短歌、俳句、川柳とも必ずはがきを使い、1枚に3首・句まで。いずれも自作の未発表作品に限ります。作品は返却しません。

 作品と同じ面(裏面)に氏名(筆名の場合は本名も)・住所・年齢(学年)・電話番号を記し、〒986-0827石巻市千石町4の42、三陸河北新報社編集部・文芸係(短歌、俳句、川柳を明記)まで。連絡先は0225(96)0321。


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