夏の甲子園(河北新報社石巻総局・今里直樹)

水紋

 野球少年だった。夏になると、今も頭の中で繰り返し流れる曲がある。全国高校野球選手権大会の大会歌「栄冠は君に輝く」。夏の甲子園の開会式でこの曲を聞くと、矢も盾もたまらなくなる。

 最初に記憶に刻まれた大会は1980年、東北高が中条善伸投手(元巨人、女川町出身)を擁して臨んだ夏だった。

 中条投手は79年大会の1回戦、肘痛に耐えて出場。押し出し三つを含む4四球で一回も持たず、5対18と惨敗した。

 中条投手は女川一中時代、東北大会を制した左腕。東北高に入学し、1年秋に背番号「1」を獲得。2年春から甲子園に出場したものの、常に制球難にさいなまれた。

 当時の竹田利秋監督は「あいつを立ち直らせなければ指導者失格だ」と決意し、技術はもとより生活面から徹底指導した。師弟がそれぞれ野球人生を懸け、闘った。

 3年の夏、中条投手は甲子園に帰ってきた。5万人の観客が集まった開会式直後の初回、3者連続3球三振を奪う。劇的な変身は野球少年の心を震わせた。3回戦で惜敗したが、まさに記録より記憶に残る夏だった。

 本紙1面で「私の甲子園」を連載している。石巻ゆかりの甲子園出場者が世代を超え登場する。成功と挫折に満ちた10代の経験を語る言葉には、その舞台に立った者しか語れない重みがある。

 「栄冠は君に輝く」の一節に<一球に一打をかけて青春の賛歌をつづれ>とある。

 また熱い夏が来る。

(河北新報社石巻総局・今里直樹)

【2018年7月12日(木)石巻かほく掲載】


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