日常を伝える(河北新報社石巻総局・今里直樹)

水紋

 春、大型連休と相まって石巻地方の各地は伝統行事や各種イベントでにぎわう。地域の恒例行事の開催を紙面に載せる際、ここ数年、記事に付いて回った「東日本大震災後初めて」や「○年ぶり」という表記がだいぶ少なくなってきた。

 新聞記者になって30年近く。ニュースになるのは日常的な出来事より「非日常」と思ってきた。突発的な事件、急転直下の選挙、地方議会の紛糾などなど。現場を走り回っては記事を書き、記事を書いては現場に向かう。取材先からは「記者は本当に『乱』が好きだなあ」とあきれられた。

 そんなゆがんだ価値観を打ち砕いたのが震災だった。日常と非日常が逆転した。目の前の全てが想定外で、未曽有で、前代未聞だった。どうあらがってもコントロールできない出来事がある。経験則が役に立たない取材がある。終わりの見えない混乱を前に、初めてこの仕事の恐怖を知った。

 震災から8年目に入った。震災前、毎年開かれてきた春祭りが再び紙面に載るようになった。恒例行事が恒例で開かれることの安心。「今年も開かれたよ」と紙面で伝えられる喜び。地域ニュースの価値はここにあるのだろう。

 休日のたび、半島沿岸部を見て回っている。先日、小さな集落でにぎやかに祭りが開かれていた。ふと見ると、同僚の若手記者が取材していた。「申し訳ないな」と思いつつ、地域によって立つ記者の原点を今更ながらかみしめた。

(河北新報社石巻総局・今里直樹)

【2018年5月17日(木)石巻かほく掲載】


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