短歌(4/21掲載)

短歌

【佐藤成晃 選】

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真夜の夢さめてうつろの暗闇に歌を編めとて海が広がる (石巻市駅前北通り・津田調作)

【評】夜中に目を覚ましてからの為すすべのない時間。暗闇があるばかりなのだが、「歌を編め」とささやく声がする。歌の世界は若き日の船乗りだった頃の思い出。世界の海を駆け回ったことを「詠め」と言わんばかりに「海」が催促しているかのようだ。佳作の条件としては歌材が新鮮であることはもちろんだが、若い頃の経験が思い出となって発酵したような作品もまた捨て難いものだ。それが仕事に関わる内容だと作者の人生が見える佳作になることが多い。

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来し道の糸のもつれをほどくごと憶(おも)いたぐれば息はずむなり (東松島市大曲・阿部一直)

【評】傘寿の中ほどになって自分の人生を振り返ってみると、いろいろな事が絡まり合って分からない部分も多いはず。それらの記憶不鮮明なところをあれこれ思いを巡らせていると、「そうだ」と合点がゆくところがあったりして、突然胸の鼓動が速くなったりする。青春時代の一こまだったり、新妻との思い出だったり、仕事上の失敗だったり。一つ一つがあの当時の喜びや怒りとは別のニュアンスで思い出されたりして、尽きることがない。歌あるゆえの豊かな老後がうらやましい。

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眠り子の布団を剥(は)ぐ背に何度でも布団をかける母でありたい (東松島市矢本・千葉楓子)

【評】若い母親の純な祈りのような一首だ。口語で、しかも上から下まで散文調で詠い上げた一首だが捨て難い魅力がある。「母でありたい」と言う結句の言葉は、願望の表現であることから逆算すると、現実にはなかなか優しいだけの母親を生きることが難しいことを言っているのかもしれない。未熟な母の育児についての祈りのような心情を読み取りたい。子供のことを歌に残して「歌のアルバム」にしてほしいものだ。

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郊外にいっとき夢を見ましたよ今その夢に夏草ばかり (石巻市恵み野・木村譲)

朝摘みという友からの蕗(ふき)の薹(とう)両手に余る春のほろにが (石巻市南中里・中山くに子)

夕暮れの駅の広場の白木蓮ともし火かえし花のみ白し (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

我が背(せな)で大きくなりし幼子はアメリカへ発つ世界を見たいと (仙台市青葉区・岩渕節子)

愛用の湯飲みにそっと茶を淹(い)れてあの日あの頃の味を飲み込む (石巻市須江・須藤壽子)

デパートの巡り歩きも楽しかりき疲れて横たわる東北線に (石巻市八幡町・松川とも子)

茜(あかね)して今し沈まん太陽に明日は良き事ありそうな空 (石巻市大街道・宍戸珠美子)

罹災(りさい)地を棄てずに生きるカタツムリわずかな幅を行ったり来たり (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

桜咲く教室に来て鞭(むち)とれとサインをくれし恩師なつかし (仙台市泉区・米倉さくよ)

深夜にて昭和のメロディに聴きほれぬラジオにもらう至福の時間 (石巻市向陽町・中沢みつゑ)

雉子(きじ)鳴きし思い出探す散歩道マンション、スーパー地内ぐるぐる (石巻市蛇田・菅野勇)

カレンダーの予定通りに終えし日は生きた心地す棘(とげ)なしの薔薇 (石巻市開北・星雪)

我が日課今朝も10分の体操を終えて一礼ラジオを止める (石巻市羽黒町・松村千枝子)

啓蟄(けいちつ)もとうに過ぎたる畑に出て雑草抜けば飛び出す蛙(かえる) (石巻市高木・鶴岡敏子)

廃屋の冬を越したる寒椿今日も一重の花弁整う (石巻市丸井戸・佐々木あい子)

木蓮の花さく隣りの老い二人互いに安否気遣う仲に (石巻市不動町・新沼勝夫)

ユリカモメ吹き矢のかんざし刺したまま悲しみまとい川面漂う (石巻市丸井戸・高橋栄子)

【2018年4月21日(土)石巻かほく掲載】

■作品を募集中

 短歌、俳句、川柳を募っております。皆さんの力作をお寄せください。

 募集要項は次の通りです。

 短歌、俳句、川柳とも必ずはがきを使い、1枚に3首・句まで。いずれも自作の未発表作品に限ります。作品は返却しません。

 作品と同じ面(裏面)に氏名(筆名の場合は本名も)・住所・年齢(学年)・電話番号を記し、〒986-0827石巻市千石町4の42、三陸河北新報社編集部・文芸係(短歌、俳句、川柳を明記)まで。連絡先は0225(96)0321。


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