空気(河北新報社石巻総局・関根梢)

水紋

 「僕たちは、毎日寝たり起きたりする。その行動は当たり前で、いわば空気のようなもの。防災も空気のように当たり前の存在であってほしい」

 女川町竹浦に立つ「いのちの石碑」の前で、大学1年生の渡辺滉大(あきと)さん(19)がこう訴えた。東日本大震災直後に中学校に入学して以来、同級生らと共に教訓を後世に伝える活動を続けている。

 例年、3月に入ったころから震災関連の報道がわっと増える。この時期のマスコミの取材攻勢は、さながら嵐のようだ。東北から離れて暮らす人たちの心にメッセージを届けるためには、その力強さも必要なのかもしれない。

 しかし「あの日を忘れちゃいけない」としきりに訴えられると、毎日のように足を運んでいる女川が、日常から切り離されたような感覚に陥る。嵐のただ中に身を置きながら、自分の立ち位置を見失いそうになった。

 「防災を『空気』にしたい」と言った渡辺さんらの語り口には強い使命感がにじむが、気負った様子は感じられない。「1000年後のいのちを守る」。その思いは彼らにとって既に日常の一部であり、空気のように当然のことなのだろう。

 その姿を見て、私の役割はここに暮らす人たちが生み出す空気を、風に乗せて少しでも遠くに運ぶことなのだと気付かされた。嵐のような威力はないかもしれない。それでも風を吹かせ続けることが大切なのだと思う。彼らの思いが、いつか離れた地の「空気」となるように。

(河北新報社石巻総局・関根梢)

【2018年3月20日(火)石巻かほく掲載】


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