S君の家(久野義文)

水紋

 旧観慶丸商店が、展示・文化交流施設として再開館した。タイルで外壁を覆ったモダンで洋風な建物は、石巻市指定文化財にもなっている。

 でも、私にとって、そこは親友S君の家として記憶されている。

 市民の文化交流スペースとなった1階。そこから奥にある畳の部屋が見えた時、一気に記憶がよみがえった。そこは茶の間だった。S君の両親の穏やかな顔がいつも出迎えてくれた。母親が私の来訪を告げると、2階から起きがけのような顔をした彼が下りてきたものだ。

 大学を出た彼は家業を継いだ。その家は、市民なら誰でも知っているように大きな陶芸店でもあった。しゃれた建物は店舗兼住宅だった。文化交流スペースになった場所に、いろいろな形や色をした陶器が並んでいた。夏には売り物の風鈴が、外から入ってくる川風に涼しげに揺れて鳴り、風情を醸し出した。

 そこに生活が確かにあった、営みがあった、においがあった。今も中に一歩入ると、S君と両親たちが団らんしている光景や、顧客とやり取りしているところが目に浮かんでくる。

 過去はすぎ去るのではない。目に見えない空気となって何層も積み重なっていく。それが人の歴史となり、街の歴史となり、文化となる。その上に今がある。

 新たな使命を帯びた旧観慶丸商店。きのうまで生け花展でにぎわった。市民の文化交流の場として時を積み重ねていくに違いない。

(久野義文)

【2017年11月7日(火)石巻かほく掲載】


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