短歌(10/7掲載)

短歌

【佐藤成晃 選】

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ぽっかりと古木の洞(うろ)が埋まらない妻をディへと送りし朝(あした) (石巻市恵み野・木村譲)

【評】「古木の洞」は身のうちにできた穴のたとえ。古木は作者が高齢者であることを匂わせてもいる。老妻を施設の「ディサービス」へ送り出した後の夫の心情をそのまま歌にしたものだ。長い年月寄り添ってきた妻を施設に送り出した後の虚無感は何かで充填(じゅうてん)しようとしても出来ないものなのだろう。確実に忍び寄るものを感じながら、その時間に耐えている作者像を思った。

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お互いに足をゆるめて振り向けば記憶の底に揺れる微笑(ほおえ)み (東松島市・阿部一直)

【評】誰の「微笑み」なのだろうか。初句に「お互いに」とあるから夫婦なのかもしれぬ。並んで歩きながら2人の過去を色々と語り合ったのだろう。長い間のことだから、波風の立ったことも確かにあった。しかし、2人で確かめ合えたことは「微笑み」だった。元気はつらつとした笑いなどではない、「記憶の底」にかすかに「揺れる微笑み」。長い経験を積んできた2人にはそれが「たしかな」支えになっているのだろう。

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陣営に女の菊師そそと入り雑兵小姓(ざふひょうこしゃう)を着せかへてをり (石巻市相野谷・戸村昭子)

【評】お祭りの裏を見せてくれる佳作。いわゆる菊人形祭りの裏方の必死さに焦点を合わせた一首である。一日の気温や風向きなどで人形を覆っている花が衰えてしまった。来客・観光客にはいつも美しい菊人形を見せねばならない。お祭りの主催者側の菊師は萎れかかった花をすぐに取り換えなければならないのだ。「着せかへる」の実態はそんなことだと推測する。裏方があってのお祭りである。

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ボリユームを少し下げよと子は言いぬ老いの進むを知りたる一日(ひとひ) (石巻市向陽町・後藤信子)

船端(ふなばた)に千々に砕ける秋の月碧(あお)い波頭を白く染め付け (石巻市門脇・佐々木一夫)

病室の窓辺に夕の茜射(あかねさ)すわれ怖ずおずと明日のオペ待つ (女川町・阿部重夫)

深く吸いゆっくり吐いて背を伸ばす無我でとり組むヨガ五十分 (石巻市南中里・中山くに子)

波を切る舳先(へさき)の飛沫(しぶき)に七色の虹を呼びつつ船は走りぬ (石巻市駅前北通り・津田調作)

一つずつメロディラインの音符踏む同士の道にはぐれぬように (多賀城市・佐藤久嘉)

サプリ飲み老化防止に努めおり効(き)くか効かぬか定かならねど (石巻市向陽町・鈴木たゑ子)

読みかけのなぜか気になるあのページ付箋(ふせん)はがして読み返しみる (石巻市清水町・岡本信子)

あの日から七年待った航空祭インパルス描くハートと星を (石巻市丸井戸・松川友子)

朝顔の碧咲(ひら)きてやはらかな命ひとつに今年も逢へり (石巻市桃生町・佐藤国代)

津波あと残すタンスを目の端に留めればよぎる だから手離(はな)さぬ (石巻市開北・星雪)

女川のサンマ祭りに行きし夫ホタテみやげに揚々帰宅 (仙台市青葉区・岩淵節子)

はらからと栗拾いせし里の庭まぶたに浮かぶ眠れぬ夜を (仙台市泉区・米倉さくよ)

一人居の部屋に入りし鬼やんますばやく出てゆき又もどり来ぬ (石巻市蛇田・千葉冨士枝)

京の旅に孫が拾いし苔寺のモミジが眠る詩集の中に (石巻市和渕・丁子タミ子)

川土手を下りて行けばわが故郷久々に聞く蝉の合唱 (石巻市丸井戸・木村照代)

老い我を気遣う電話いくたびも夫に逝かれて間もない友は  (女川町・木村くに子)

【2017年10月7日(土)石巻かほく掲載】

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