(92)クレーム

 お恥ずかしい話をあえて申し上げます。教師になって間もない頃、「クレイマー、クレイマー」という映画がやって来ました。主演は「卒業」のダスティン・ホフマン。どんな映画だろうと興味津々。「クレーマー」を繰り返していることから何らかの「苦情」を訴えるものかと思いつつ、映画館に足を運びました。

 とんでもない思い違いでした。苦情どころか、よりシリアスな「離婚」をテーマにした映画で、原題は「 Kramer vs. Kramer 」… Kramer夫妻の離婚裁判、直訳すれば「クレーマー対クレーマー 離婚訴訟」。アヴェリー・コーマンの小説を原作をもとに、ロバート・ベントンが監督した1979年公開のアメリカ映画。第52回アカデミー賞作品賞ならびに第37回ゴールデングローブ賞を受賞した秀作です。

 「クレーマー」は英語で claimer。「クレーム( claim )する人」を表しますが、問題なのは claim という英語が誤った意味で日本語に定着していて、私も勘違いしていたということです。

 claim は、正統な権利主張または請求の意味合いが濃い言葉です。損害賠償請求を表す場合もありますが、「不平、不満、苦情」といった意味がほとんどないのです。

 日本語のクレーム(=苦情)に相当する英語は complaint(コンプレイント)でしょう。動詞形は complain で「不平、文句を言う」。

 claim がどのような経緯で「苦情」を指すカタカナ語「クレーム」として日本語に定着したかは不明ですが、世間に、自分のことは棚に上げて一方的に文句や苦情を主張(claim)する御仁がいることから来ているのかもしれません。

大津幸一さん(石巻専修大人間学部教授)

【2017年6月13日(火)石巻かほく掲載】


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)