短歌 (4/8掲載)

短歌

【佐藤成晃 選】

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覚悟無き夢を語れた若き日が我にも確かにあったと俯(うつむ)く  (石巻市開北・星雪)

【評】何の根拠もない「夢」に浮かれた若き日。夢は青春のシンボルだし、それが許されるのだとしても、「覚悟」が無かったところに思い出としては苦さが伴ってしまうのだろう。自分にも若き日が「確かに」あったと確認できるだけに、余計「覚悟」の無かった自分の青春時代に俯かざるを得ない作者の心理的な屈折が、歌を深いものにしあげた。青春時代の思い出に「俯く」ことは誰にもあるはずだが、みんな忘れてしまっているだけ。

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老いし身に必死に漕ぎ行く自転車は水溜まり踏み空をも踏みぬ  (石巻市南中里・中山くに子)

【評】老人が一生懸命に漕いで行く自転車。少年が乗りこなす自転車のようには小回りがきかない。勢いのままに水溜まりを避けることもなく真っ直ぐに進むことも多々あるのだろうか。水溜まりに写っている空をも踏みつけて自転車は進んでしまうのだ。この歌の場合、空を踏みつけて進むのが自分ではなく「自転車」なのだというところが面白い。他人行儀的に詠んだところに笑いが生じる隙間があるのかもしれない。

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緩慢(かんまん)にクレーンの滑車上下する震災現場の寒き夕ぐれ  (女川町・阿部重夫)

【評】瓦礫(がれき)運搬のための現場か、震災復興工事の現場か。クレーンの滑車が上下するさまをじっと見つめている作者。自分の町への祈りのような思いを持っての凝視だろう。目に見えるクレーンの滑車の動きが「緩慢」であると表記したところに作者の狙いがあるのかも知れない。それは「もっと速く」と叫びたいのだろうか。なかなか期待通りにならない不如意な気分は「寒き夕ぐれ」と重なって効果的である。

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朝待ちのしばしのあいだ過去を見て起きて訃報の地方版見る  (石巻市恵み野・木村譲)

我が生を歌に詠まんとペン持てど真っ青な海が広がるばかり  (石巻市駅前北通り・津田調作)

落ち葉踏めば温もり伝わる足裏に浄土ケ浜の岩を打つ波  (石巻市和渕・丁子タミ子)

待ってても来ない電話に腹を立て遺影にむかって「電話ください」  (石巻市渡波町・小林照子)

朝まだき澄みし空気を突き破り一番電車の警笛の音  (東松島市・奥田和衛)

ネットにて古本あがないATMでお金を送る人を介さず  (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

独り居の料理は変り映えもせず時には巡る惣菜(そうさい)売り場を  (石巻市丸井戸・松川友子)

ゆっくりと物言ふ友はうち深く澄んだ音色の泉持つごと  (石巻市桃生町・佐藤国代)

地震のたび頭守れと言いし母戦時の帽子を子らに送りぬ  (仙台市泉区・木村照代)

入学をことほぐごとく飛行機はハートの航跡残して去りぬ  (石巻市吉野町・伊藤敏子)

手櫛にて事足るほどにカットせり髪の痩せしは齢(よわい)と悟る  (石巻市中央・千葉とみ子)

竹藪(たけやぶ)を根こそぎ倒し家が建つ梅が咲けどもうぐいすは来ず  (石巻市築山・西條政毅)

いにしえのランプの宿や老い二人あの日と同じ山桜道  (石巻市大門町・三条順子)

這えば立て立てば歩めの親心役目終わりて気づけば八十路(やそじ)  (女川町・木村くに子)

病む友を見舞いて帰る道すがら鷺の番(つがい)に心すくわる  (石巻市桃生町・千葉小夜子)

たそがれて露地にかがめる我が影よ落日あはく沈みゆくかな  (石巻市門脇・佐々木一夫)

慰霊祭終えて海辺に合掌す渚(なぎさ)は小波(さざなみ)寄せては返す  (女川町・木村いよ子)

【2017年4月8日(土)石巻かほく掲載】

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