佐村河内氏ドキュメンタリー映画を見て

「被災者の人権はどこに」 湊小学校を応援する東京サポート代表・松田隆夫氏(70)

 私は東日本大震災直後から、復興教育支援のため、石巻でボランティア活動を続けています。家族を失った子どもたちの支援をしながら、5年余り子どもたちの様子をつぶさに見てきました。

 先月、石巻の友人から「佐村河内守が出演する映画が上映され、ネット上に面白半分で騒がれている。東京に帰った時に見に行ってくれないか」と頼まれました。

 ドキュメンタリー映画『FAKE』(森達也監督)です。映画館は、長蛇の列でやっと入れました。内容は「聴覚障害はウソはない。作曲は丸投げではなく共作である」という本人の自己弁護だけで、被災地への言及はありませんでした。私は我慢して最後まで見ましたが、むかついてトイレに駆け込み嘔吐(おうと)しました。

 佐村河内守氏の音楽活動は、被災地と深く関わっていました。ピアノ曲を献呈する「不憫(ふびん)な少女」を探していた同氏が、女川で親を失った小学4年生の少女Mさんに言葉巧みに近づき、その寂しい気持ちにつけ込み、少女の家を度々訪れました。

 極寒の女川で野宿までして「作曲」された「被災地のためのレクイエム、ピアノ鎮魂曲」が、2013年3月10日、湊小学校体育館で初演されました。

 佐村河内氏は「被災地の少女に鎮魂曲を贈った作曲家」という称号を手に入れました。これらの様子は、3月31日NHKスペシャル「魂の旋律~音を失った作曲家~」で全国放送されました。

 ところが、1年後に「全聾(ろう)の天才作曲家」の数々の虚偽が明らかになり、Mさんへの「パパは悪いことをしたので刑務所に入ります」という一通のメールで「家族ぐるみの交流」は終わりました。

 Mさんは深く傷付き、大好きなピアノを弾かなくなり「ピアノを捨てて!あの楽譜を捨てて!」と言いました。佐村河内氏は、石巻に来て謝罪していません。

 報告を聞いた石巻の反応は「傷付いた者の痛みを明らかにするのがドキュメンタリーではないのか」「被災者を愚弄(ぐろう)した男の言いたい放題だけの映画はおかしい」「利用したい時は甘い言葉で被災地を振り回し、具合が悪くなれば無視は許せない」「おだづなよ!」と憤まんやるかたない怒りが渦巻いています。

 「映画がもたらす予測できない影響から、どうやって傷ついた子どもたちを守るかだ。石巻・女川での上映はやめてほしい」という声もありました。

 NHKをはじめ放送各局が虚偽に気づかず「天才作曲家」を祭り上げてしまったことを検証した、放送倫理・番組向上機構BPO報告書2015.3.6も「見抜けなかったのは仕方がなかった」というばかりで、被災者への人権侵害については触れていません。人権を守るのが、BPOの使命なはずです。

 震災の混乱の中でどれだけの人権侵害があったか、被災地から改めて全国の人々に知らせる必要があると思います。

【2016年8月13日(土)石巻かほく掲載】


コメント一覧

  1. 日野伸一

    Fakeとは偽者という意味がある。
    あまりよくないイメージにとらわれるが、けっして悪意のある言葉ではない。
    コピー商品という意味で、「fake far」とされるファッションアイテムがある。
    豹柄、虎柄の上着やコートが商品としてある程度の人気商品になっていることは事実。
    納得して購入される分には問題外。
    結果的に”売名行為”の道具にされた少女にとって、佐村河内さんの謝罪に同意する気持ちは微塵もないでしょう。
    不憫な境遇を癒そうとして託したピアノのけん盤。
    無粋な大人が無惨にピリオドをうってしまった。
    ピアノの蓋が開くまでに時間はたつに違いない。

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