被災地と怪談(河北新報石巻総局・古関良行)

水紋

 三陸沿岸のある仮設住宅でのことだという。

 東日本大震災の津波で亡くなったはずの近所のおばあちゃんがふらりと訪ねてきて、一緒にお茶を飲んだ。立ち去った後、座布団はぐっしょりぬれていた…。

 その仮設住宅に住む男性は、こともなげに言ったという。「あんたはもう死んでんだよって、わざわざ教えるのもなあ。そのうち、自分で分かるときがくるべ」

 仙台市の出版社「荒蝦夷(あらえみし)」の土方正志さん(53)から聞いた話である。被災地では、そんな不思議な話が幾つも語られている。

 震災と怪談をテーマにした「みちのく怪談会」が先日、東松島市の蔵しっくパークであった。そこでも、被災地での幽霊譚などを聞いた。

 怪談というが、怖さはない。「出てきてくれたんだ」「やっと会えた」。死者との再会を懐かしそうに語るのが、印象的だった。死者への優しいまなざしと哀別の情、ぬくもりを感じた。

 怪談は、生者と死者とがつながる物語なのだなあ、と思った。土方さんも言う。「怪談は亡くなった人へ思いをはせる、鎮魂と慰霊の文芸です」

 会場で、荒蝦夷の最新刊『渚(なぎさ)にて あの日からの<みちのく怪談>』を求めた。東北の作家たちが、震災後に体験した実話や創作など怪談45編をつづっている。

 夏、霊魂が帰ってくる季節。人々はあの日の多くの死とどう向き合っているのか。一つ一つの作品を丁寧に読んでいる。

(石巻総局・古関良行)

【2016年8月4日(木)石巻かほく掲載】


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