言い訳(相沢美紀子)

水紋

 「海や川の近くには二度と住むもんか」。東日本大震災の直後、余震におびえながらそう誓ったはずなのに、今春から海と川にほど近い浸水域に住んでいる。

 言い訳をすると、空き物件はわずかで、高台の一軒家は広すぎて家賃が高い。案内された部屋は、駅や商店街まで徒歩圏内と便利だ。周辺には多くの人が普通に暮らしているし、もっと海寄りでは建売住宅が分譲中だ。断る理由は自分のこだわり以外なかった。

 実際、住めば都で、水辺を散歩し、気軽に買い物に出られるのは快適だ。災害リスクを声高に話すのも、現地での再建を決意して新築したご近所さんに申し訳ないような気がする。

 そんな日々の中で、震災の記憶を呼び覚ましてくれるのが津波到達点を示す看板や、避難所への案内表示だ。観光客など震災を知らない人に訴えるものと思っていたが、住民自らの記憶の風化を食い止め、避難を促す効果があると身をもって知った。

 時折、石巻市雄勝町で高台への集団移転を拒んでいた人々の顔が目に浮かぶ。

 「高齢になって下の街まで買い物に行けるのか。いずれ元の場所に1人が住み始めて、また集落ができるぞ」

 その言葉通り、雄勝の高台の団地が完成するより先に、あっさりと誓いを撤回してしまった自分は少々ばつが悪い。せめて津波注意報・警報が出たら、周囲に呼び掛け、率先して避難しようと、新たな誓いを立てている。

(相沢美紀子)

【2016年7月21日(木)石巻かほく掲載】


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください