ご近所付き合い(相沢美紀子)

水紋

 壁越しに聞こえる怒声と衝撃音。昨年度まで住んでいた仙台のアパートは、隣室の夫婦が連日派手なけんかを繰り広げていた。顔を合わせれば笑顔であいさつしてくれるが、深くは知らない。

 私が育った集落なら、近所の人が上がり込んで来て仲裁してくれるだろう。その代わり、瞬く間にうわさが広まるのは察しがつく。鍵があってないような関係。その良さも難しさも知っている故に、ご近所付き合いに慎重になってしまう。

 実際、沿岸部で被災し、市街地への避難を余儀なくされた人が「地元を離れて寂しいけれど、解放されてほっとしているの」と、固く口止めした上で明かしてくれたことは少なくない。

 孤独死や近隣トラブルがニュースになると「濃密な近所付き合いが失われたことが原因」と識者は言う。一方で、当たり前とされてきた遠慮のない風土への苦手意識が、新天地での交流に二の足を踏ませたり、若い世代の流出の一因になったりすることも否めない。

 震災後の重要課題とされる「コミュニティーの構築」について、度々紙面で扱いながら、どんな関係を示すのか、理解しきれていないのが本音だ。少なくとも、聞こえがいい掛け声に終わらせたくはない。

 心地よい関係は、行政や支援団体につくってもらうものではなく、互いに思いやり、理解し合うことで、時間をかけて自分の手で築いていくしかないのかもしれない。自戒を込めてそう思う。

(相沢美紀子)

【2016年5月24日(火)石巻かほく掲載】


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください