(3)豊かな海の幸、お裾分け

刺し網から魚を外す

刺し網から魚を外す阿部さん夫妻。自宅にも愛猫はいるが、港には来ないという

 薄明の午前5時、石巻市田代島の仁斗田漁港。軽トラックが5台ほど止まっていた。もう海に出た漁師がいる。

 岸壁には猫たちが集まり、海の方角を気にしているようだ。船外機の音が近づき、1隻、また1隻と戻ってきた。猫たちはソワソワが激しくなり、着岸する船を追いかけるように岸壁を走る。

 阿部啓蔵さん(78)は船から刺し網を収めたカゴを4個、5個と岸壁に揚げ、妻の陽子さん(75)とともに座り込んで、網から魚を外した。

 アイナメ、タナゴ、ソイ、メバル、カワハギ。おけに見る見る魚がたまっていく。磯魚のほかに、ツブやウニもごろごろと掛かっている。

一心にかぶりつく猫

小魚をもらって一心にかぶりつく。競争は激しく、中には魚をくわえて一目散に走り、安全圏で食べる猫もいる

 待ちかねている猫は4匹。イワシや幼魚を放ると、待ってましたとばかりに取り合いが始まった。

 「家から軽トラに乗ってきたやつもいる。浜さ行く車が分かるんだよ、こいつらは」

 かつてはカキ養殖も手掛けていた阿部さん。東日本大震災の津波で養殖施設を失い、カキからは手を引いた。食べるものが採れる暮らしはいいですねえ、と率直に感じたことを振ってみる。「そうですかね」と、淡々とした声が返ってきた。

 仁斗田の民宿のスタッフが大きなバケツを片手に、魚を仕入れにやって来た。阿部さんがバケツに、網から直接魚を放り込む。「ウニも全部持っていけ」。気前がいい。

 夕方のわずかな時間に、岸壁のすぐ先で網を掛け、タナゴを揚げる小舟を見かけたことがある。つえを突いて路地を歩くおばあちゃんを追いかけて来た女性が、磯で採ったフノリをお裾分けで手渡す光景も見かけた。小さな漁の、大きな豊かさである。

(フリーライター・渡辺征治)=毎月最終日曜日掲載

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【漁業の復旧】
 田代島では仁斗田漁港が大型定置網漁の拠点になっているほか、刺し網などの沿岸漁業、カキ養殖が行われている。2014年2月現在、漁船数は仁斗田37隻(震災前40隻)、大泊13隻(震災前18隻)まで回復した。仁斗田沖のカキ養殖の洋上施設は17基(震災前33基)となっており、カキ共同処理施設も再建されている。

【2014年8月31日(日)石巻かほく掲載】


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