〔4〕第1の謎 「正方形の謎」(下)

住まい探偵帖@石巻

モダンボーイにヒント

 神山家の正方形はまだまだ続く。垂木、窓、引き違い板戸の開口部…。数え上げると最低七つはある。謎はますます深まる。あなたはいくつ発見できるか? できれば現場に行って探してほしい。

 ただし、ここでいう正方形は「錯視」を前提としている。実は、ヒトの目は本当の正方形は縦長に見えてしまう。これを「垂直水平錯視」(フィック錯視)と呼ぶ。

 どうしてか? 目は左右に横に並んでいる。垂直方向よりも水平方向の方が見やすい。水平方向ならば一目でとらえられる距離でも、垂直方向となると、ある程度眼球を上下に動かす必要がある。この眼球の疲労度が、垂直方向の距離が長く見える原因ではないかと言われている。

錯視を計算し寸法

 神山家の正方形は、この錯視を計算して、むしろ寸法的には縦を短くしたフシがある。その方がちゃんとした正方形に見えるからだ。なかなかの「錯師」ではないか!

イラスト

イラスト・佐々木麻衣

 垂木は、屋根の荷重を受けるので本来縦長が基本。ちょっと専門的になるが、建物の部材寸法を決める大工さんの教科書を「木割書」という。「匠明」(しょうめい)は江戸時代初期の木割書だが、垂木の成(高さ)は幅の1.2倍としている。他の木割書もこの基本を守っている。

 神山家はなぜこの基本を破るのか? 私には、あえてやったとしか思えない。

 こんなとっぴな家を建てた神山捨松さんはどんな人か。残念ながら家が完成する前に亡くなられている。興味津々で現在の戸主・清さんにお聞きした。

 何せ3代前のひいひいおじいさん、奥さんのきすよさんは長生きでさまざまな思い出はあるが、捨松さんは謎の人とのこと。なぜ若くして亡くなられたのか、その原因も分からない。ならば、推理するしかない。建物が語ってくれるはずだ。

 捨松さんの職業は? 清さんの話では、漁業と運輸業。漁業といっても漁師ではなく船主。さらに塩も作って売っていたそうだ。裕福な商人と言っていいだろう。

進取の気性に富む

 捨松さんは分家だが、本家から資金を受けずに独立独歩、新しい土地に家を新築した。明治元年生まれ。文明開化の時代、進取の気性に富んだ方ではなかったか。

 商人は、お金の出し入れや契約など書類を書く。捨松さんは文字を学び、さまざまな本を読む教養人ではなかったか? その中には外国の本もあったのでは?

 海は世界に通じている。ご存じ、伊達政宗も慶長使節に海のロマンを見た。石巻は仙台藩の海の玄関。モダンボーイの捨松さんの正方形が見えてきた。

(1級建築士・那須武秀)

【2014年3月16日(日)石巻かほく掲載】


コメント一覧

  1. こうちゃん

    追伸、、、むかしから神山家の屋号を (だいのいえ)と言ってました、家が大きいから大の家?素封家だったから大の家? それとも家の形状から  台の家?かは 定かではありません。

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